【君は将来何になるのか?】フィリピンの山奥で出会った小学校の先生の姿

研究
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 フィリピンメンバーの調査に同行し、カリラヤ湖の奥地にある村を訪れたとき一人の小学校の先生に出会った。彼女は、大学を卒業してから5年間この村で小学校の先生をしているとのことだった。この村は電気も水道もインターネットも無いが、そんな環境で教師に励む彼女の話がとても印象的だったので紹介する。

カリラヤ湖を進むと‥

 カリラヤ湖はラグナ湖の東側に位置する巨大な人工湖である。ラグナ湖より標高の高い場所に位置し、毎週決まった日にラグナ湖から水を引き上げ、引き上げた水をラグナ湖に流すことで水力発電を行っているらしい。そのため決まった周期で推移が変動するのだとか。水を引き上げるためにも電気を使っているのではないか?と聞いてみたが、そこの仕組みについてはよくわからなかった。このカリラヤ湖であるが、街に近い側の河岸にはキャンプ場やコテージが作られており、観光客で賑わうらしい。舟に乗り45分ほど進むとそれまでの観光施設は一切なくなり、鬱蒼とした山の中に今回の目的地である村が突然現れた。この村はいくつかの川岸から構成されており、住民は自分の舟に乗って移動する。そのため、小学校がある川岸と違う岸に住む生徒は自分たちで舟を漕ぎ学校に通っている。

観光船、エンジンで動く
舟で学校に通う子供達

深刻な水不足と住民の生活

 この村には、電気も水道もインターネットも通っていない。その中でも一番問題なのは水不足だという。洗濯や風呂には湖の水や雨水を使っているが、飲み水を確保することができないのだ。現状は村の外れから出る湧き水を飲んでいるが、過去の調査で、そこの湧き水はフィリピンの安全基準を下回っていることがわかっている。住民の持つ手漕ぎボートでは外の街から調達することも難しい。彼らにとって、いかに手軽な方法で飲み水を確保するかは喫緊の課題である。水不足の中で食糧はどう調達しているのか気になったので村民に聞いてみると、森の中に案内された。そこには、バナナやパイナップル、ジャックフルーツ、キャッサバといった作物が野性の植物にまじって植えられていた。こうした作物は雨水だけでも十分に育つため、自分たちが食べるのに十分な量を植えて食糧としているのだそうだ。

雨水回収装置
壊れた汲み上げ装置
パイナップル
バナナの木

村での教育と若き先生の大志

 村には1つの小学校があり、20人くらいの小学生と2人の先生がいた。先生のうちの1人が英語を喋ることができたので色々話を聞いた。彼女は、大学を卒業してからこの村の先生になり今年で5年目だといっていた。どうしてこの村の小学校で先生をすることにしたのかと聞くと、フィリピンでは年によって配属になる小学校の場所が異なり、彼女の年はたまたまこの村だったらしい。日本のように配属先がローテーションで変わる制度はないようで、彼女は一生この村の教師をする覚悟でこの仕事を選んだと言っていた。彼女の出身はこの村ではないということだったので、電気や水がない生活を送ることに抵抗はなかったのかと聞いてみると、最初は不便で嫌だったが自分が教師になれるのはここしかなかったからしょうがなかったんだと笑っていた。さらに話を聞くと、彼女の家はカリラヤ湖の街にあるのだが、毎日観光船で通うにはお金が足りず平日は村の小学校に寝泊まりして生活していることや、月曜日には生徒のために観光船に飲料水を積んで通勤していることなどがわかった。このような過酷な環境でも自分の仕事に真摯に取り組む姿に尊敬の念を抱いた。彼女の今の目標は、村の女の子のほとんどが中学校に進学せず早々と結婚してしまう現状を改善することらしい。そのために、小学校できちんとした教育をしたいのだと言う。最後に博士学生まで行って将来は何がしたいんだと聞かれた。いつもなら研究者になりたいと答えるところだが言葉に詰まってしまった。自分の回答があまりにも陳腐で恥ずかしく思えたからだ。将来自分が何を成し遂げたいのか、そのために今何ができるのか?研究以上の難題を突き付けられた気がした。

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