フィリピンで、日本のバードウォッチャーに遭遇した!

研究
シロボシショウビン

 遡ること3月、約半年ぶりにフィリピン大学ロスバニョス校を訪れた。ラグナ湖のほとりに位置するこのキャンパスには、私の指導教員の友人である現地の先生がいて、フィリピン滞在中は何かとお世話になっている。私の調査地からは100km以上も離れているためほとんど会えていなかったが、今回はどうしても来なければならなかった。自分の家に溜まりに溜まった土壌サンプルを保管してもらうためだ。レンタカーの契約は到着日まで。日曜日だったため大学の保管場所には鍵がかかっており、やむなくサンプルは別の場所に一時的に置かせてもらうことになった。

悲しみの延泊

 今回の滞在は3泊4日の予定だった。翌日、研究室に顔を出すと、懐かしいメンバーたちが温かく迎えてくれた。半年前から多少の入れ替わりはあったようだが、賑やかさは健在だった。研究室ではポケポケ(去年リリースしたスマホ版のポケモンカードゲーム)が流行っていて、みんな対戦に勤しんでいた。自分もやっていたので何回か対戦したがみんな普通に強くて驚いた。特に一人、かなりハマっているメンバーがいて、「プロモマンキー持ってない?」と聞いてきた。プロモマンキーはリリース当初に配布された限定カードだったため、出遅れて始めた彼は入手できなかったらしい。手持ちを確認すると私は4枚持っていた。そこで彼が車を持っていることを思い出し、「もし交換が解禁されたら絶対あげるから、明日サンプルの運搬を手伝ってくれない?」と頼んでみた。返ってきたのは、「もちろんだぜ」の即答。今回のミッションも無事完了だと安堵した。
 だが翌日、約束の時間になっても彼の姿はなかった。まぁ、これはある意味で想定内だった。1年の滞在を通じて、フィリピンでは「その場のノリ」で返事をされがちだというのは十分理解していた。また彼らがその次の日、大事な会議を控えていて準備で忙しいことも分かっていた。しかし想定外だったのは、日曜日に開いていた仮保管場所の鍵が、月曜も火曜もなぜか閉まっていたのだ。車が来なかったら最悪手押し車で自分で運べばいいやと思っていたが、鍵を持っていないためサンプルを部屋から取り出すことができなかった。そこで急遽5人のメンバーにそれぞれ「明日、会議前に鍵だけ開けておいてほしい」と頼み、みんなから「OK!」という返事をもらった。ところが運命の朝、現地に向かうと、鍵は固く閉ざされたままだった。これで延泊が確定。半年かけて集めてきた貴重な土壌サンプルを、無造作に仮保管所に置いたまま捨てられたらたまったものではないため家に帰る選択肢はなかった。結局、この3日間、ほぼ何もせずに過ごしてしまった。フィリピン人のこの「調子の良さ」には、何度も痛い目を見てきたが、いまだに対処法がわからない。

土壌サンプル

延泊の喜び

 翌日、前日までに何度も「明日は必ず鍵を開けておいてね」と念を押しておいたおかげか、ようやく土壌を正式な保管場所に移すことができた。風乾のためのトレー作りとサンプルをトレーに広げる作業は丸一日がかり。フィリピン大学ロスバニョス校では17時を過ぎるとほとんどの人が帰ってしまい、私は鍵を持っていないので、それ以降は作業ができないのが厄介だ。ただ、その日はたまたま遅くまで残っていた先生がいて、無事一日で作業を終えることができた。次の日は、11時くらいに大学前から高速バスに乗れば暗くなる前に家に戻れることを知っていたので、朝は大学の裏山を散策することにした。狙いはラフレシアである。裏山のラフレシアは3月が開花期らしく運が良ければ見れるということだった。入るのに予約が必要な標高の高いところにしか咲かないと聞いていたが、手前にある「mad spring」にも咲いているという情報を耳にしたので行ってみることにした。ロスバニョスのラフレシアは普通のやつより小さく遺伝的に珍しいため、世界中から研究者がやってきているみたいだが、素人的にはラフレシアはでかい方が嬉しいけど…。朝5時30分入山届を出して散策を開始した。まだあたりは暗く周りの木々からは無数の鳥の声が聞こえた。しばらく歩いていると、前方でかなり良いカメラを持ったバードウォッチャーが何かを観察していた。今まで見てきたフィリピンのバードウォッチャーは双眼鏡のみの人が多かったため、これはかなりの猛者かもと期待して近づいていった。近づくと観察していたのはなんとシロボシショウビン。私がラフレシアの裏で密かに狙っていた鳥の一つだった。これはラッキーと思って写真を撮っていると「where are you from?」と話しかけられた。「Japanese」と答えると、「え?日本人?!」と言われてびっくり。この方も日本人だったのである(以降Tさん)。Tさんは沖縄で環境アセスメントの調査員をされていて、東南アジアのバードウォッチングにも精通していた。今回はインドネシアで鳥を見たついでにフィリピンにも来たらしい。正直フィリピン大学でのバードウォッチングは以前からやっていたが、なかなか良い種を観察できずにいた。この人についていったらいい種が見れるかもという予感がよぎった。ラフレシアを見に来たことを伝えるとインドネシアでラフレシアを外したらしくラフレシアのポイントまで一緒に行くことになった。Tさん曰く、フィリピン大学のフィールドは木が高くてインドネシアより観察が難しいらしい。それでも同行したおかげでオウチュウやヒメハヤブサとかみれてよかった。肝心のmad springでは1時間くらいラフレシアを探したが見つからなかった。インドネシアでも意外とラフレシアは難易度が高かったらしい。mad springは巨大な泥沼の温泉で森林の中から突然湧き出している光景は良かった。手を入れてみる確実に50度以上あり、下手すると火傷しそうな感じだった。そうこうしているうちに出発の時間が近づいてきたので、Tさんとはお別れした。最後に台湾の学会に参加するというと、台湾での鳥見スポットをいくつか教えてくれた。正直、今回の延泊にはがっかりしていたが、この出会いがあったことですべてが報われた気がする。「禍福は糾える縄の如し」とは、まさにこのことだろう。

ホットスプリング

おまけ:山下将軍の慰霊碑

 以前、お前は山下トレジャーを狙う日本のスパイに違いないと言われた時に話題にあがった山下将軍の慰霊碑がロスバニョスにあるということで行ってみた。場所はgogle mapにも載っているが、普通の住宅地の奥にありフィリピンに慣れてない人だと行くのが難しそうな場所だった。慰霊碑がある場所は施錠されており、鍵に書かれている電話番号に電話するとオーナーが出てきて中に入らせてくれる。私は朝7時に行ったが普通に対応してくれたので、オーナーがいさえすればいつでも大丈夫だと思う。中の慰霊碑には日本語で文字が書いてあった。後で調べると日本の団体が建設したもののようだ。オーナーにどんな人が来るのか聞いてみると、基本的に人はほとんど来ないが、たまに本気で山下トレジャーを掘り当てようとしているフィリピン人が参拝に来るらしい。

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